「AIファンド」は本当に儲かるのか?── 5年間の実績をどう読むか
資産運用

「AIファンド」は本当に儲かるのか?── 5年間の実績をどう読むか

FTL編集部

人工知能を運用判断に用いると謳う投資信託や上場投信は、国内外で相応の本数が設定され、数年分の運用実績が公開される段階に入りました。判断材料が揃ってきたことで、「AI を使っているから優れている」という抽象的な議論から、実際の成績をどう評価するかという具体的な問いへ移行しています。

ただし、公開されている騰落率をそのまま比較しても、意味のある結論は出ません。何と比べるか、どの期間で見るか、生き残った商品だけを見ていないか。この三点を押さえないと、都合のよい解釈が容易に成立します。本稿では、AI ファンドの実績を読むときに必要な視点を整理します。

「AI ファンド」という括りに実体はない

まず前提として、AI ファンドは統一された定義を持ちません。目論見書を読むと、その中身は大きく三つに分かれます。銘柄選定のスコアリングに機械学習を使うもの、ニュースや開示文書の分析に自然言語処理を使うもの、そして資産配分の決定に最適化アルゴリズムを使うものです。

さらに、AI の関与度合いも幅があります。最終判断まで自動化しているものもあれば、運用者の判断材料の一つとして使うにとどまるものもあります。同じ AI という語で括られた商品群の中身は相当に異なるため、まとめて成績を論じることには無理があります。

実務的には、目論見書と運用報告書から、どの工程に何を使っているかを読み取る作業が出発点になります。この記述が曖昧な商品は、それ自体が判断材料になります。手法の詳細を全面的に開示する運用会社は多くありませんが、どの工程を自動化しているかという水準の説明は本来可能なはずで、そこすら曖昧な場合は説明姿勢の問題として受け取れます。

比較対象を間違えると結論が反転する

実績評価でもっとも多い誤りが、ベンチマークの選び方です。日本株を対象とする AI ファンドを東証株価指数と比較するのは自然に見えますが、その商品が小型株や高配当銘柄に偏っている場合、比較すべきは対応するスタイル指数です。

この違いは結論を反転させます。市場全体に対して超過収益があるように見えても、それがスタイルへの傾きで説明できるなら、AI の寄与とは言えません。同じ傾きを持つ低コストの指数連動商品で代替できることになります。

評価の実務では、リターンを既知のリスクファクターで回帰し、説明されない部分が残るかを見ます。市場、規模、バリュー、クオリティ、モメンタムといった標準的なファクターで説明しきれる部分は、運用手法の独自性とは切り分けて考えます。

import statsmodels.api as sm

# ファンドの超過リターンを標準的なファクターで回帰し、
# 説明されない部分(アルファ)が統計的に残るかを見る。
X = sm.add_constant(factors[["mkt_rf", "smb", "hml", "rmw", "cma", "mom"]])
model = sm.OLS(fund["ret"] - factors["rf"], X).fit(
    cov_type="HAC", cov_kwds={"maxlags": 6}   # 系列相関を考慮した標準誤差
)
print(model.params["const"] * 12, model.tvalues["const"])

この分析で得られる係数は、あくまで採用したファクター群に対する相対評価です。ファクターの選び方次第で結果が変わる点は、解釈の際に留保しておく必要があります。

5年という期間は結論を出すには短い

運用手法の優劣を統計的に判断するには、想定される超過収益の大きさに対して十分な観測数が要ります。年率で数パーセントの差を有意に検出しようとすると、必要な期間は直感より遥かに長くなります。5年程度の実績は、方向性の示唆にはなっても結論にはなりません。

加えて、5年という期間に何が含まれていたかが結果を大きく左右します。特定の相場環境に有利な設計であれば、その環境が続いた期間の成績は良く見えます。期間を分割して安定性を見ることで、環境依存の度合いをある程度は把握できます。

また、運用手法が途中で変更された商品には注意が要ります。目論見書の改定や運用体制の交代があった場合、変更前後の成績を連続した実績として評価することはできません。運用報告書を遡って、手法の連続性を確認する作業が要ります。

ドローダウンの経験も確認すべき項目です。良好な平均リターンの裏で、途中に大きな下落を挟んでいれば、多くの投資家はその局面で解約します。実際に得られるリターンは、商品の理論上の成績ではなく投資家の行動に左右されます。

生き残った商品だけを見ていないか

比較記事や商品ランキングでしばしば抜け落ちるのが、償還された商品の存在です。成績が振るわず繰上償還された商品は現在の一覧に現れないため、残っている商品だけを平均すると、カテゴリ全体の成績が実際より良く見えます。

この生存バイアスは、新しいカテゴリほど強く働きます。設定本数が増えている時期には、成績の良い商品が目立ち、消えた商品は記憶に残りません。カテゴリの評価を知りたい場合は、設定時点の全商品を母集団として追跡した資料を探す必要があります。

個人が同じ分析を行うのは容易ではありませんが、少なくとも「いま販売されている商品の一覧」がカテゴリ全体を表していない可能性は意識しておく価値があります。

運用報告書から読み取れること

公開情報だけでも、判断材料はある程度集まります。運用報告書には組入上位銘柄、業種別配分、売買高比率、そして運用経過の説明が記載されます。これらを時系列で並べると、商品の性格が見えてきます。

とくに注目したいのが、組入銘柄の入れ替わり方です。四半期ごとに上位銘柄が大きく入れ替わる商品と、ほとんど変わらない商品では、想定している保有期間が異なります。説明されている運用手法と実際の売買が整合しているかは、報告書を並べれば確認できます。

運用経過の記述も手がかりになります。成績が振るわなかった期間について、要因を具体的に説明している商品と、市場環境のせいにする記述で済ませている商品では、運用体制の成熟度に差があると考えられます。

コストは確実に効く

リターンの予測は不確実ですが、信託報酬は確実に毎年差し引かれます。AI ファンドは能動的な運用として設定されることが多く、指数連動商品と比べて信託報酬が高くなる傾向があります。

この差は複利で効きます。超過収益がコスト差を安定して上回るという確証がない限り、コストの低い代替手段が合理的な選択肢として残ります。判断の順序としては、まずコスト差を上回る根拠があるかを確認し、そのうえで運用手法の中身を評価するのが実務的です。

売買回転率も間接的なコストとして働きます。運用報告書に記載される売買高比率が高い商品は、開示される信託報酬に現れない取引コストを負担しています。この費用は基準価額に反映されるため、信託報酬だけを比べると実際の負担を見誤ります。

販売時にかかる費用も確認します。購入時手数料が設定されている商品では、その分だけ回収に時間がかかります。同種の商品で手数料の有無に差がある場合、その差を上回る運用上の優位があるかを問う必要があります。

純資産総額の推移も見ておく価値があります。規模が小さいまま推移している商品は、固定費の負担比率が高くなるうえ、繰上償還の可能性も残ります。逆に急速に規模が拡大した商品は、当初の運用手法をそのまま維持できるかという別の論点が生じます。手法の収容能力を超えると、超過収益は縮小します。

まとめ

AI ファンドの実績を読むときに必要なのは、AI かどうかという分類ではなく、適切なベンチマークとの比較、期間の分割による安定性の確認、生存バイアスへの警戒、そしてコスト差を上回る根拠の有無です。この四点を確認したうえでなお説明されない部分が残るなら、そこに手法の価値がある可能性があります。逆に、これらを確認せずに騰落率だけを比べても、判断の材料にはなりません。

金融テクノロジー総合研究所では、運用モデルの検証プロセスの整備、ファクター分析基盤の構築、パフォーマンス評価の設計といった領域で受託開発を行っています。既存の評価手法の点検からご相談いただけます。お問い合わせよりご連絡ください。

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